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東京地方裁判所 昭和40年(行ウ)116号の1 判決 1968年3月21日

原告 泉芳政

被告 神奈川県

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の申立

一、原告

「被告は原告に対し、金四五〇円を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求める。

二、被告

主文同旨の判決を求める。

第二原告の請求原因

一、原告は、神奈川県大和市下鶴間でゴルフ場を経営する社団法人相模カントリー倶楽部の社員であり、かつ、その正会員であるが、昭和四〇年九月二三日同ゴルフ場を利用したところ、被告は地方税法(ただし、昭和四一年法律第四〇号による改正前のもの。以下同じ)第七五条第一項第二号、第七八条の二及び神奈川県県税条例(ただし、昭和四一年神奈川県条例第二七号による改正前のもの。以下同じ)第二二条第一項第二号、第二四条、第二八条第四項の規定により、右利用に対する娯楽施設利用税として、原告から金四五〇円を徴収した。

二、しかし、右娯楽施設利用税の徴収は、以下に述べる理由によつて無効である。

(一)  ゴルフ場の利用に対しその利用者に娯楽施設利用税を課することを定めた地方税法第七五条第一項第二号、第七八条の二の規定は憲法第一三条に違反する。

憲法第一三条は、個人の尊重と、生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利の尊重を規定しているが、およそ人として健全な身体を有し健康を維持するのでなければ右の権利の保障はまつたく無意味であるから、国民が健全な身体及び健康の維持・増進を求めて体育ないしスポーツをする自由は、当然同条の保障する国民の権利に含まれ、立法その他の国政の上で最大の尊重を必要とするものと解すべきであり、このことは、憲法第二五条や教育基本法、学校教育法等の規定からも明らかである。従つて、体育ないしスポーツを一般的に禁止又は制限することはもとより、特定のスポーツを直接禁止又は制限することも憲法上許されないことは当然であるが更に、スポーツ自体の禁止又は制限でなくても、ある種のスポーツをすることに対して課税し、あるいはそのスポーツの性質上一定の施設を必要とする場合に右施設の利用に対して課税することは、担税能力のない者からスポーツを奪う結果となる点において、スポーツに対する間接の制限に外ならないから、かかる課税はやはり憲法第一三条に違反し許されないといわなければならない。ところで、わが国におけるゴルフは、以前はたしかに一部の富裕者の娯楽とされていた時代もあつたが、今や老若男女を問わず一般大衆に親しまれ、長期にわたつて人生最高の潤いをもたらし、青少年の体位の向上、老壮年の健康の保持等国民一般の希望に密着し、健全なスポーツとして異常な進歩・発展・普及をとげ、ゴルフ人口は二〇〇万人以上といわれるほどであり、ゴルフアを統合する団体も数多く設立され、また、最近においては、高校、大学等でゴルフ部を設けているところが少くなく、ゴルフを正式の体育の教科としている大学すら存在する。かくて、今日ゴルフは、社会通念上スポーツとして観念され、これにより国民の体位の向上、健康の増進、スポーツ精神の涵養をはかる重要な手段とされるにいたつたのである。そうだとするならば、ゴルフにゴルフ場が必要なことは明らかであるから、ゴルフ場の利用に対し娯楽施設利用税を課することを定めた地方税法の前記規定は、スポーツであるゴルフを間接に制限するものとして、憲法第一三条に違反し無効であるというべきである。

(二)  そればかりでなく、右地方税法の規定は、憲法第一四条にも違反する。

すなわち、スポーツに一定の施設の利用を必要とし、かつその利用に対して料金を支払うものとしては、ゴルフの外にもスケート、テニス、水泳等があるが、テニスコートや水泳プールの利用に対して課税されたことはなく、また、スケート場も、以前はゴルフ場とともに娯楽施設利用税の課税対象施設に含まれていたが、昭和三二年七月の地方税法の改正の際、スケートにはスポーツ性が強いとの理由により課税対象施設から除外されたのであり、他にアマチユアスポーツ施設の利用に対して課税している例をみない。しかるに、等しくスポーツのために利用する施設でありながら、ゴルフ場だけは依然娯楽施設利用税の課税対象施設として存置され、その利用者に対してのみ右利用税が課されていることは、明らかに他のスポーツ施設利用者との間に税負担の公平を欠くものであり、法の下の平等の原則に違反するといわなければならない。

(三)  仮に地方税法の前記規定が違憲でないとしても、本件課税は次の点で憲法に違反する。

1 社団法人相模カントリー倶楽部は、ゴルフ場の施設として、神奈川県大和市に所有土地二一町九畝一一歩、借地約二〇万坪を有し、その地上に本館ロツカー、キヤデイハウス等数百坪の建物を所有し、その社員である一定数の会員だけにこれを利用させているが、社団法人は形式上社員から独立した法人格を与えられているとはいえ、本質的には社員と別個の実体を有するものではないから、右倶楽部の有するゴルフ施設も実質的には社員である原告らの共有に属するものとみるべきであり、原告がゴルフのためにこれを利用することは、いわば自己所有の土地、建物を利用するのとなんら異るところがない。したがつて、かかる利用行為に対して娯楽施設利用税を課することは、自宅の庭でのゴルフ遊びに対して課税するのに等しく、社員の財産権の行使を不当に制限するものというべきであるから、右課税は財産権の不可侵を保障した憲法第二九条に違反する。

2 相模カントリー倶楽部は、その所有する前記ゴルフ施設につき、地方税法の規定によつて固定資産税を課されているが、右に述べた社団法人の実質からみるときは、その社員が施設について固定資産税を課されているのと異らない。しかるに、社員が右施設を利用するのに対し更に娯楽施設利用税を課するというのでは、結局において同一物件に対し二重に課税することに帰し、いわゆる二重課税禁止の原則に違反するばかりでなく、同倶楽部の社員だけを他の一般の土地建物所有者と区別して、不当に不利益に取扱うものであり、憲法第一四条にも違反するといわなければならない。

(四)  相模カントリー倶楽部の経営するゴルフ場は地方税法第七五条第一項第二号及び第七八条の二の規定にいう「ゴルフ場」には該当せず、少くとも原告の同ゴルフ場の利用に対しては娯楽施設利用税が課されるべきではない。

地方税法第七五条第一項各号は、娯楽施設利用税の課税対象施設を掲げ、それがどのような実体のものをいうかについては格別の定めをしていないが、娯楽施設利用税が娯楽施設の利用に対して課されるものである以上、営利の目的をもつて不特定多数の第三者に利用させ、料金も徴する娯楽用の施設に限ると解すべきであり、従つて、形式的には右各号に当る施設であつても、社会通念上右のような性質を有しないようなものは課税対象施設に含まれないといわなければならない。例えば社団法人日本クラブ内にあるまあじやん室や東京弁護士会内にある撞球室をそれぞれの会員が利用することに対して娯楽施設利用税が課されていないのはこの故である。ところで、ゴルフ場にはいわゆるパブリツク制のものとメンバー制のものとがあり、本件ゴルフ場はこの後者に属するがパブリツク制とは、個人又は法人がゴルフ場を設置し、営業としてこれを不特定多数の第三者に利用させて一定の料金を徴するものであり、その施設の設置には利用者はおおむね関係しないのに対し、メンバー制は、主に法人が主体となつて会員を募集し、入会者から三〇万円ないし三〇〇万円程度の入会金(保証金としての預り金又は株式払込金)を徴し、それによつてゴルフ場の施設をつくり、その会員にのみ利用させるもので、会員は利用の都度若干の利用料金(本件ゴルフ場では三〇〇円)を支払うほか、運営費として一定額の年会費を納めるだけであり、会員以外の者(ビジターと称する。)は、会員と同伴するか、又はわずかだけ発行されるいわゆるビジター券を所持する場合に限り、相当高額の利用料金(一、〇〇〇円ないし三、五〇〇円)で利用を許されるにすぎないという仕組になつている。そして、このようなメンバー制のゴルフ倶楽部においては、ゴルフの競技をすることに主たる目的があるのではなく、あくまでも会員相互の親睦によつてゼントルマンとしての教養とモラルを涵養することに重点がおかれているのであり、このため、本件相模カントリー倶楽部では、会員を選定する手続は厳正で、正会員となるには、まず正会員二名の推せんを得て入会を申し込み、更に理事会がゼントルマンとしての資格の有無を厳格に審査・選考して入会を決定するものとされている。また、メンバー制ゴルフ場におけるゴルフの競技についてみても、上記の点に重きをおいた厳しい規則が設けられ、まつたく健全なスポーツとなつており、娯楽などというべきものではなく、まして営利性や射こう性が全然ないことは明らかである。

以上のような諸点からすれば、メンバー制のゴルフ場は、営利のために不特定多数の第三者に利用させることを目的とするものではないし、また、社会通念上も娯楽施設といわれるものには当らないというべきであつて、地方税法第七五条第一項各号に併記されているぱちんこ場、射的場、まあじやん場などのごとき営利本位・射こう的な娯楽施設とはまつたく性格を異にするばかりでなく、前記パブリツク制のゴルフ場とも本質的に相違し、これらと同一に取り扱うことはとうていできないものである。かように考えると、同条第一項第二号にいう「ゴルフ場」とは、パブリツク制のゴルフ場を意味し、メンバー制のゴルフ場を含まないと解するのが正当であり、少くとも本件のようにメンバー制のゴルフ場をその会員が利用することに対しては娯薬施設利用税が課されるべきではないといわなければならない(ビジターが課税されるのはやむをえない)。仮に百歩を譲り、メンバー制ゴルフ場の会員による利用行為も課税されるものであるとしても、それは、当該ゴルフ場が商法上の会社組織により営利事業として経営されている場合に限定されるべきであり、本件相模カントリー倶楽部のように民法上の社団法人が経営しているゴルフ場の、会員による利用行為は課税の対象にならないと解すべきである。

(五)  相模カントリー倶楽部のゴルフ場をその会員が利用する関係は地方税法第七五条等にいう施設の「利用」に当らず、その際に支払う料金も同条の「利用料金」ではない。

相模カントリー倶楽部は創立のときから社団法人であり、その全施設は会員の拠出した資金によつて取得され、維持されてきたものであつて、会員はその固有の権利として右施設の利用権を有している。そして、この会員たるの権利は譲渡相続の許されない一身専属権であり、施設の利用権は会員たる地位と不可分のものである。したがつて、会員が右の施設を使用することは、会員の地位に専属する固有の権利の行使であつて、ビジターが料金を支払つてはじめて施設の利用を許されるのとはまつたく趣きを異にし、法にいう施設の「利用」と目すべきものではない。それ故、会員は、その施設の使用について本来利用料金を支払わなければならないものではなく、ただ、倶楽部の維持・管理の責任が会員にあり、その経費を会員が分担しなければならないので、一定額を会費として納入させるとともに、会員の使用度に応じて負担の公平をはかるため、利用料金という名称で右の費用を徴収しているのにすぎない。すなわち、この料金は、施設利用の対価として「利用料金」ではなく、会費の一部とみるべきものなのである。これを要するに、相模ゴルフ倶楽部の会員が同倶楽部の施設を使用する権利は、会員固有の一身専属権として憲法の保障する一の私権であるから、その権利の行使を施設の「利用」と解するのは誤りであり、また、右権利行使の際の会員の支出を施設の「利用料金」に当ると解することも許されないというべきである。

三、以上の理由により、被告が原告から娯楽施設利用税として前記金四五〇円を徴収したことは、なんら法律上の原因なくして原告の財産により利益を受け、これがため原告に同額の損失を及ぼしたものというべきであるから、被告は原告に対し、右金四五〇円を不当利得として返還すべき義務がある。

よつて、請求の趣旨記載のとおりの判決を求める。

第三被告の答弁

一、請求原因第一項の事実並びに本件ゴルフ場がいわゆるメンバー制のゴルフ場で、その会員たる地位の譲渡、相続は禁止され、その利用料金が一人一回につき会員三〇〇円、非会員三、五〇〇円ないし四、五〇〇円であること、ゴルフがスポーツとしての性質を有し、大学、高校の体育の教科に採用されていること、スケート場が娯楽施設利用税の課税対象施設から除外されたことは、いずれも認めるが、その余の原告の主張は争う。

二、本件娯楽施設利用税の徴収が無効であるとの原告の主張は、以下に述べるとおりすべて失当である。

(一)  地方税法第七五条第一項第二号等の規定が憲法第一三条に違反するとの主張について

元来、国民の国法に対する関係をみるに、国民が日常生活(個人生活)において、国法上自由であるといわれる場合には次の二つの場合がある。その一は、国法に対して無関係な関係であり、国法によつて何等義務づけられていないという意味において自由な状態であり、その二は、憲法上、国民の利益のためにある種の国法の定立の禁止される結果、国民が自由に行動しうる状態を憲法上保障されている状態である。前者の場合を単に「自由」と呼ぶこととし、後者の場合を「自由権」と呼ぶこととする。右二つの分類の意義は、「自由」は、単に国法上の制限のないことによる反射的な国民の利益にすぎないもので、憲法上この自由の制限を禁止する手当てのないものであり、これに反して、「自由権」のほうは、憲法上、この自由な状態を確保するよう手当てのなされているものであつてこれを制限する国法は、定立されても無効であるとの差異があり、これを明らかにするところにある。換言すれば、国民の個々人が生活を営むうえに必要とする行動であつても、これ等がすべて憲法上の権利としてこれを制限(公共の福祉による制限は、権利自体の内部からの制限であるからこの場合は無関係である)する国法の定立が禁止されるものではないということであり、更に言い換えれば、憲法によつてまでその自由を確保されるものには、一定の重要性ないし定型性があるものであり、その範囲をどことみるかは、人権宣言としての憲法の歴史的沿革、時代を支えている憲法感覚によつて決定されるべき事柄なのである。例えば、単なる「自由」に属するものとしては、散歩をする自由、読書をする自由(思想の自由を考えない場合)などであり、憲法上保護に値いする「自由権」に属するものとしては、言論の自由、信教の自由などがあるわけで、民主々義を基礎として、個人の尊重を達成するために、憲法をもつてまで保護すべきものであるかどうかがこの判断の根本を成すのである。そこで、本件の場合、スポーツをすることの自由、就中、ゴルフをすることの自由が、右の判断基準からみて、単なる「自由」か、憲法上保障さるべき「自由権」に属するのかについて考察すると、現行憲法が、「自由権」として明示的に保障しているものは、第一八条以下第二三条に列挙されており、第一三条は、その総則的規定であつて、これ等の自由権(これ等に限定するものではないとしても)の国政上での尊重の精神を述べたものに外ならない。してみれば、第一三条にいう幸福追求の権利というのは、広い概念ではあるが、少くとも右列挙されたもの及びこれに準じた程度のものであつて、民主々義国家の存立上必須の理念たる個人の尊重に欠くべからざるものとして、憲法をもつてしてまでその保障を与えるだけの高度の重要性を認められるものでなければならないのであり、この重要性の判定に当つては、前記の当該時点における憲法感覚の外現在に至るまでの憲法(人権宣言)による保護の沿革も一つの大きな基準となるといわねばならない。かように考えてくると、スポーツをする自由というものは、現在に至るまで、人権宣言の規定に表現されたこと、あるいはその問題の生じたこともないのであり、憲法において保護すべき類のものではないと沿革的に考えられてきた(国法定立の段階の判断に委ねられてきた)ものであり、また、スポーツをすること、就中、ゴルフをすることの自由それ自体を、前述の判断基準に照らしてみたところで、この自由が憲法上保障されないと、個人の尊重という民主々義理念の達成に重大な障害を生ずるというような性質のものでもないのである。すなわち、ゴルフをする自由は単なる「自由」であつて、憲法上の「自由権」ではないといわねばならない。かようにして、原告の主張は、この前提においてすでに理由のないものである。

次に、仮にゴルフをする自由が、憲法第一三条によつて保障されている権利であるとしても、税法の規定によりゴルフ場の施設の利用行為に課税することが、果してゴルフをすることに対して制限を課することと云いうるものであるかについて考察すると、ゴルフをすることそれ自体とゴルフ場の施設を利用することは、観念的に別物であり、原告のいうようにゴルフをすることが国民の健康を増進するために有益であるために憲法上の保護を受けるものであるとしても、ゴルフ場を利用することに対する制約が憲法上禁じられているとまでいうことは、はなはだ非常識な結論との感を免れないのである。そればかりでなく、国家が、ゴルフ場の施設の利用行為に課税するのは、その利用者の担税力に着眼するからであつて、利用行為を制限する目的に出たものではないのであるから、右の課税をしたからといつて、国家が憲法第一三条により要請されている義務に違反しているものということはできない。この意味からも、ゴルフ場の施設の利用行為に課税することをもつて、ゴルフをすることに対し制約を課したといわれる筋合のものではない。

更に、仮に、ゴルフをすることが憲法上の権利であり、ゴルフ場の施設の利用行為に課税することが、これに対する制約であるとしても、この制限はもともと憲法上許されているものである。すなわち、憲法は、その第三〇条において、国民の義務として納税の義務を規定しているが、これは、国民が、法律の定めるところにより租税を納める憲法上の義務があるとするものであつて、自由権の行使といえども、その行為者に担税力ありと法律が認めて課税することを規定する以上、課税の対象となつてなんら差しつかえがないということを意味するものである。単に、自由権の行使を制限するため、その目的のみで課税する場合はともかく、自由権の行使を著しく制約するものでないかぎり、換言すれば、憲法が自由権を国民に保障したことの意義を全く没却するような程度のものでないかぎり、自由権を行使する行為が、その担税力の有無、大小に応じて、課税の対象となるということである。これを例えば職業の選択は憲法第二二条の保障する権利であるが、事業者に所得税、事業税を課することが何等憲法違反とならないというがごとくである。本件においてこれをみるに、後にも述べるように、ゴルフ場の施設を利用することは、多かれ少かれ、高額の利用料金を払い、高価な用具を用いる行為であるから、担税力は十二分に認められるのであつて、憲法上も当然課税の対象となるべきものである。

以上要するに、原告の憲法第一三条違反論は、とうてい是認しがたいといわなければならない。

(二)  前記地方税法の規定が憲法第一四条に違反するとの主張について

原告は、ゴルフをすることがスポーツでありながら、他の同様スポーツであるものについては、その施設の利用行為が課税の対象となつておらず、ただゴルフをすることについてのみそのゴルフ場という施設の利用行為が課税の対象とされているのは、不合理な差別であると主張するのであるが、これは娯楽施設利用税の課税というものの根本を理解しない考え方である。本来、この課税の本質について考える場合、その対象となるものは担税力の有無、大小であつて、課税の対象の性質、例えばそれがスポーツであるか否かは全く関係のないことである。この無関係なものを持ち出して、その独自のカテゴリーの中での類似性、同一性を強調して、一方に課税され、他方に課税されないのは不合理な差別であるとするのはまさに不合理な論法であるというべきである。

かようにして、原告のこの主張は、憲法第一四条以前の問題であり、理由のないものであるが、これを強いて担税力の問題として考えても、原告の例を借りていえば、スケート場の利用行為は、現時点にあつてはその利用範囲は甚だ広く一般大衆に普遍化し、殊に青少年間にあつては、健全なスポーツとして利用され、その料金も低額であり、その施設等も贅沢なものではなく、娯楽性、奢侈性は甚だ低いのに反し、ゴルフ場の利用行為は、はるかに高額の利用料金ないしは利用の対価の出捐を要し、その用具も高価である等奢侈性(これはスポーツ性と両立しうる性質である)と娯楽性に富み、担税力という点からみても、前者を非課税とし、後者に課税するのは、課税というものの性質上全く合理的というほかはない。

(三)  本件課税が憲法第二九条等に違反するとの主張について

まず、本件課税が憲法第二九条に違反するとの原告の主張は、倶楽部の土地建物等が、その社員の実質的共有に属すると断定することにおいて、その前提から誤つているものである。そもそも、法人は、それが構成員たる個人から独立して社会的経済的実体を有するものであるが故に法がこれを人格を与えたものであつて、その財産は、その構成員をはなれて形式的には勿論のこと、まさに「異質的」にその独自の所有に属するものとなつているのであつて、これをもつて、構成員の実質的共有であるなどと論することは、全くもつて独自の論というほかはない。

しかも、これを前提としたうえ、かような原告のいわゆる社員の権利が憲法第二九条の保譲を受けうるものとし、更にこれの利用行為に課税することはその制限として憲法により禁じられているとの説を展開するに至つては、全く誤れる観念の遊戯と評するほかはない。前述したように、憲法は国民の納税義務を規定しているのであり、課税というものが、具体的には担税力の有無をもつてその指標としている以上、財産権の行使(社員の施設の使用行為が、原告のいうように憲法第二九条により保障されているものであるか否かは別としても)というものが対象となつてくることは、むしろ原則的なことであつて、原告の論法によるとすれば、憲法が国民の納税義務を規定したことの意味が全く没却されてしまうことは見易い道理である。原告は不当な前提に立つたうえでこのことを看過し誤れる結論を導いているものである。

次に、原告は、やはり倶楽部の土地建物が社員の実質的共有に属するとする前述の誤れる前提に立つたうえで、この土地建物に課せられる固定資産税は社員に課せられるものと同様であると断じ、社員が右土地建物を利用するについて本件課税がなされているのであるから、「同一課税物件」に対し二重に課税されていることになると主張する。この「二重課税」であるとの主張が果して如何なる法の違反をいうのか、憲法の違反をいうのかそれとも他の法律等の違反をいうのか明確でないが、そもそも二重税であるということ自体が奇異な論である。そのいうところは、「同一課税物件」であるからというのであるが、元来、課税物件とは、「いかなることがらについて課税されるか」ということであつて、固定資産税においては、それが固定資産の所有であつて、同税はこの点に担税力を見出して課されるのであり、娯楽施設利用税においてはそれがその施設の利用であるわけで(その施設が固定資産であることもあるが)、その基礎となるものがある場合には同一の「物件」であるからといつて、決して同一の「課税物件」ではないのである。これを例えていえば、建物を所有し、これを店舗として使用して営業した場合、それぞれ固定資産税と事業税の二つが課せられることになるが、これも原告の論法によれば二重課税であつて許されないという非常識な結論になるはずである。このことからみても、原告の主張は不合理であることが明白であり、もとより右課税の憲法第一四条違反論が失当であることは多言を要しない。

(四)  本件ゴルフ場が地方税法第七五条第一項第二号等にいう「ゴルフ場」に当らないとの主張について

原告は、右地方税法の規定の解釈として、ゴルフ場の運営ないしは経営形態又は利用者のゴルフ場に対する関係により、その利用行為に課税される場合(パブリツク制の場合、メンバー制のビジターの場合)と非課税の場合(メンバー制)との別があると主張するが、これは、同法の規定の趣旨を全く理解しないものである。すなわち、同規定は、ゴルフ場の施設の利用行為について、その利用者に対して、利用料金を課税標準として課税することとしているのであつて、利用行為そのものに利用者の担税力を見出して課税の対象としているものであるから、その利用にかかるゴルフ場がメンバー制のものであろうとなかろうと、ビジターとしての利用であろうとなかろうと全く区別していないのである。このことは、地方税法第七八条の二が、メンバー制のゴルフ場におけるメンバーによる利用行為についても当然課税されて然るべきものであるとの前提に立ち、ただ、この場合、利用料金(利用の対価)に該当するものか入会金、会費等によりまかなわれる方式によつているため、個々の利用行為について課税標準たる利用料金の算出が実際上困難であることにかんがみ、定額課税方式によりうるものとして新設されたことからみても明らかである。もとより、ゴルフの競技そのものが通常の意味でのスポーツであることは被告も認めるが、スポーツ性と娯楽性とは決して併存しえないものではなく、スポーツであるが故に娯楽施設利用税を課すべきではないという論法は、先に述べた課税の本質をみない情緒的、立法政策的見解にすぎない。

更に、原告は、ゴルフ場の経営又は運営が株式会社等の営利を目的としたものの場合にのみ、そのゴルフ場の施設の利用行為が課税対象となるとも主張しているが、これ又、右に述べた理由により明らかな如く、ゴルフ場の経営自体は何等関係ないものであるから、その主張の理由のないものであることは勿論である。

(五)  原告の本件ゴルフ場の利用及びその際の利用料金が法にいう施設の「利用」及び「利用料金」に当らないとの主張について

この点に関する原告の所論は甚だ明確を欠き、被告として理解に苦しむものであるが、社員としての使用であるから税法上の利用から除外され、会員であるから単に経費の分担であつて利用料金には当らないとする論にはとうてい賛同することができない。客観的にゴルフ場たる施設を使用するために、その使用の度合に応じて支出する経済的出捐をも含め、会費、入会金、寄付金等の名目で結局のところかなり多額な経済的出捐をしている社員による使用行為(その各使用行為毎に相応する経済的出捐の額を具体的に算出するについての難易は別として)には、社員でない者の使用行為と同様それ相応の担税力を見出しうるのであり、前記地方税法の規定の解釈として、原告主張のごとき場合を特に除外すべき根拠は毫も存しないのである。

三、以上原告の主張はすべて失当であつて、本件娯楽施設利用税の徴収は法律上の根拠にもとづき有効になされたものであるから、不当利得の問題を生ずる余地はない。

第四証拠<省略>

理由

一、原告が、神奈川県大和市においていわゆるメンバー制のゴルフ場を経営する訴外社団法人相模カントリー倶楽部の社員であり、昭和四〇年九月二三日同倶楽部の正会員として右ゴルフ場を利用したところ、被告が、地方税法(ただし、昭和四一年法律第四〇号による改正前のもの。以下同じ)第七五条第一項第二号、第七八条の二及び神奈川県県税条例(ただし、昭和四一年神奈川県条例第二七号による改正前のもの。以下同じ)第二二条第一項第二号、第二四条、第二八条第四項により、右利用に対する娯楽施設利用税として、原告から金四五〇円を徴収したことは当事者間に争いがない。

二、そこで、右娯楽施設利用税の徴収が無効であるかどうかについて判断する。

(一)  まず、原告は、ゴルフ場の利用に対し娯楽施設利用税を課することを定めた地方税法の前記規定が国民のスポーツの自由を制限するものであり、憲法第一三条に違反すると主張する。

たしかに、人が健全な心身を維持することは生存の基本的な条件であるから、国民が心身の鍛練のために体育ないしスポーツをする自由をみだりに制限すべきでないことは憲法第一三条の規定からしても当然である。しかしながら、憲法第三〇条は、「国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負う。」と規定し、また、同法第八四条は、「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。」と規定して、課税客体や納税義務者等について法律の定めに委せているところ、地方税法がゴルフ場の利用に対しその利用者に娯楽施設利用税を課することとした趣旨は後記のとおりであつて、ゴルフ自体を制限するものではなく、なんら不合理とはいいがたいから、右課税の結果、ゴルフ場利用のための支払が増加するからといつて、直ちに前記地方税法の規定が憲法第一三条に違反するということはできない。

(二)  次に、原告は、スケート場その他のスポーツ施設の利用に対しては娯楽施設利用税が課されないのに、ゴルフ場の利用に対してのみ課税するのは憲法第一四条に違反すると主張する。

テニスコートや水泳プール等の利用に対して娯楽施設利用税が課されたことがなく、また、スケート場の利用に対する課税も昭和三二年七月の地方税法の改正により廃止されたことは原告所論のとおりであり、これらのテニス、水泳、スケート等とゴルフとを比較すれば、いずれも心身の鍛練に役立つ健全なスポーツであり、リクリエーシヨンであるという点においては、なんら異るところがない。しかしながら、娯楽施設利用税は、娯楽施設においてその利用者が支払う利用料金の支出行為に担税力を認めて課税する一種の消費税であり、また、娯楽性とスポーツ性とは決して両立しえないものではなく、スポーツによつて娯楽を得るということも十分ありうるのであるから、立法上ある施設を娯楽施設利用税の課税対象施設とするかどうかは、単に当該施設の利用がスポーツであるかどうかによつてのみ一義的に決定されることではなく、その時代における国民の生活水準や社会通念を基礎として、当該施設の利用の普及度、その利用の奢侈性、娯楽性、射こう性の程度、利用料金に現わされる担税力の有無等を総合的に判断したうえで決定されるべき問題である。テニスコートや水泳プールの利用に対して課税されず、スケート場が課税対象施設から除外されたのも、それらがスポーツとしても、また娯楽としても健全なものと認められたほかに、その利用が普遍的・大衆的であり、利用料金も担税力を顕著に現わすものとはいえず、射こう性はまつたくないことによるものというべきである。他方、ゴルフ場についてみれば、ゴルフはスポーツであると同時に娯楽としての一面をも有するものであつて、その愛好者が年々増加しているとはいえ、現在なお、特定の階層、とくに高額所得者がゴルフ場利用者の中心をなしており、その利用料金(いわゆるメンバー制のゴルフ場では、会員が利用の都度支払う料金は低廉であるが、入会金等の名目で支払う高額な一時金の中に非会員の利用料金に見合うべきものが含まれていると考えられる。)からといつても相当高額な消費行為であることは社会通念上否定しがたいところであるから、法は、このような娯楽性を有する高額な消費に担税力を認めて娯楽施設利用税を課することとしたものと解される。従つて、スケート場等の利用とゴルフ場の利用との間に存する以上のような差異に着眼すれば、両者を課税上区別して取り扱うことはなんら不合理なことではなく、これをもつて法の下の平等に反するということはできない。

(三)  また、原告は、地方税法の右規定が合憲であるとしても、本件課税は憲法第二九条及び二重課税禁止の原則に違反し、ひいて憲法第一四条にも違反すると主張する。

しかしながら、原告の右所論は、いずれも、社団法人の財産をその社員個人の財産と同視すべきことを前提とするものであつて、法人の本質論としてはともかく、法人をその構成員から独立した別個の権利義務の主体としている実定法律制度とは相容れない見解に立つものであるから、そのかぎりにおいては、とうていこれを採用することができない。ただ、社員によるゴルフ場の利用がいわば自宅の庭でのゴルフ遊びに等しいとの主張について一言すれば、両者の間には、利用の対象物件が利用者以外の者に属するか、利用者自身に属するかの点において相違があるばかりでなく、ゴルフ場の場合は、たとえそれが社団法人組織のいわゆるメンバー制のものであつても、その施設自体社員たる多数人による利用を本来の目的とするものであり、しかも、これを利用するためには、利用の都度料金を支払うほか、入会金その他の名目で相当多額の出捐をしなければならない点で、社会通念上実質的にみても、これを自宅の庭の利用と同視することはできないというべきである。

(四)  原告は、更に、娯楽施設利用税の課税対象となる施設は、営利の目的をもつて不特定多数の第三者に利用させ、料金を徴する娯楽用の施設でなければならないが、いわゆるメンバー制のゴルフ場特に商法上の会社でない社団法人が経営するメンバー制のゴルフ場は、パブリツク制のゴルフ場と異り、営利のために不特定多数の第三者に利用させるものではなく、また、娯楽を目的とするものでもないから、地方税法第七五条第一項第二号及び第七八条の二「ゴルフ場」に当らず、少くともメンバー制のゴルフ場をその会員が利用することに対しては課税されるべきではないと主張する。

しかしながら、娯楽施設利用税の課税対象となる娯楽施設とは、社会通念上その利用によつて楽しみ、なぐさみを得る施設というほどの意味であつて、娯楽施設であるということと、健全なスポーツ施設であるということとが両立しえないものでないことは先にも述べたとおりであるから、パブリツク制たるとメンバー制たるとを問わずゴルフ場において行なわれるゴルフそのものが右の意味における娯楽性を有し、かつ、利用者の利用行為に担税力を認めうるものである以上、メンバー制のゴルフ場が主として利用者たる会員相互の親睦により紳士としての教養を涵養することを目的とするものであるとしても、そのことから直ちに、同ゴルフ場が娯楽施設ではなく、娯楽施設利用税の課税対象施設に含まれないということはできない(ゴルフ場、とくにメンバー制のゴルフ場を他の法定課税対象施設であるぱちんこ場、射的場、まあじやん場などと比較すると、娯楽性、射こう性の点においてかなりの差異が認められるが、これらと同程度の娯楽性、射こう性を有するのでなければ当然に課税対象施設から除外されるものとは解されない。)また、以上のような意味の娯楽施設としては、事柄の性質上、多数人の利用に供する施設であることを必要とすると考えるべきであるが、先に述べた娯楽施設利用税課税の趣旨からいつて、この場合の多数人とは、必らずしも不特定多数の公衆に限らず、特定の多数人、例えばメンバー制のゴルフ場のように会員組織により原則として会員だけに利用させるものであつても差支えないというべきであり、まして当該ゴルフ場の経営主体が商人性を有することや、営利の目的をもつて利用させることが課税の要件であると解すべき根拠はまつたくない。従つて、民法上の社団法人組織によるメンバー制のゴルフ場が地方税法第七五条第一項第二号に及び七八条の二の「ゴルフ場」に含まれず、少くともその会員の利用行為に対しては娯楽施設利用税を課すべきでないという原告の主張は、立法論としてはともかく、地方税法の右規定の解釈としては採用することができない。

(五)  最後に、原告は、相模ゴルフ倶楽部の会員が同ゴルフ場を使用する権利は会員固有の一身専属権であるから、その使用及びその際に支払う料金は、地方税法の前記規定にいう施設の「利用」及び「利用料金」に当らないと主張するが、これまで述べたところによれば、会員が当然に施設の使用権を有し、その地位が譲渡、相続を許さないものであるかどうか、また、会員の支払う利用料金が本来会費と同性質のものであるかどうかによつて、当該会員の利用行為に対する娯楽施設利用税の課税が左右されるものとは解されないので、右主張もまた理由がない。

以上のとおり、本件娯楽施設利用税の徴収が無効であるとの原告の主張はいずれも失当であり、他に右徴収を無効とすべき点はない。

三、してみると、右娯楽施設利用税の徴収が無効であることを前提として、不当利得の返還を求める原告の本件請求は、理由がないものというべきであるから、右請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 緒方節郎 小木曽競 佐藤繁)

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